根管治療の症例

4根管のうち3根管に穿孔(パーフォレーション)した歯の治療。再根管治療で5年後も経過良好。

院長の小笠原です。

根管治療の症例の紹介をします。
今回は通常だと抜歯される、難易度の高いケースです。
当院で精密な根管治療を行ない、治療して5年後の現在も再発が無く、良好な状態であります。

20代女性。
「昨年、神経を治療した歯の歯ぐきが腫れてきた」と主訴に来院されました。
聞いてみると、数年前に神経を取る治療をしたが、昨年歯ぐきが腫れてきたので別の病院で再度根管治療をしたようです。しかし、また歯ぐきが腫れて症状が出てきたとのことです。
つまり、神経を取った歯が再発し、さらに再度、根管治療をやっても治らなかったわけです。
今回が3回目の治療になります。

早速ですが、歯の状態を見ていきましょう。

CT撮影です。
膿んで顎の骨が溶けた根管
下の6番目の歯で、2本の根があります。
それぞれの根の先に黒い影があります。根の先で膿んで顎の骨が溶けています。

CTの3D画像で確認してみましょう。CT画像:根管の充填材

根管に入れた材料(充填材)が白く写っています。
青い矢印のみ長く先端まで伸びていて、赤い矢印3本は途中で止まっているのが分かります。

この充填材の方向を見てみましょう。
先ほどのCT写真で2つの根を1つずつ見ます。近心の歯根の断面まずはこちら、近心の歯根のを点線の断面で見てみます。
正面から見た歯の断面です。
近心の歯根の断面:穿孔
青い矢印が長く根管に充填されていますが、歯の根には黒い影があります。
赤い矢印は根の横側へ、誤った方向に穿孔しています。

穿孔(読み:せんこう)(英名:パーフォレーション)といって、本来の根管と違う方向に器具が進み、根管内に穴があいてしまっています。
間違った方向に歯を削り進めたため起こる医療ミスです。

次はこちらの断面へ
穿孔・パーフォレーション
遠心の歯根の断面を見てみます。
赤い矢印にありますが、この充填材はすでに根の内側に穿孔しています。

近心歯根の断面:穿孔で炎症
すでに内側に穿孔している充填材は右側の矢印のものです。途中で止まっています。
左側の根管は、左側へ突き抜けて穿孔し、その先が炎症を起こし、黒い影が見られます。
どちらの根の先も膿んで黒い影があります。

つまり、4根管のうち3根管は方向がそれて穿孔しています。
治療は、穿孔部をふさぎ、根の先まで根管を正しい方向に修正する必要があります。

 

ではここで、この治療がどのくらい難易度が高いかを説明したいと思います。
(※治療後を見たい方は下の方まで進んでもらって結構です)

今回は穿孔があるので、医原性といって医療ミスの影響が大きいですが、

そもそも、なぜ治療をしたはずなのに治らないのでしょうか?
一般の方はあまりご存じないと思うのですが、日本で「根管治療」と言って神経の治療をした場合の成功率は30%~50%と言われています。日本における根管治療の成功率
東京医科歯科大 須田先生「我が国における歯内療法の現状と課題」2011

つまり2人に1人は失敗されるという事です。

現代医療においてそんなこと許されるのでしょうか?
はい、日本は保険医療制度で安く治療を受けられるために国が容認しています。
上記のような課題論文が出たとしても、保険医療の根本が変わることは未だにありません。
国民の保険料をどんどん値上げしてくる現在の日本は、医療保険制度が破綻しています。

成功率が低いのは何故か?
海外では「根管治療」は専門性があり、専門医が行います。日本では一般歯科医師が日常的に行います。
精密を要する歯の神経治療は、

  • ラバーダム防湿:治療中に細菌感染しないようにする処置
  • 歯科用顕微鏡(マイクロスコープ):根管内部を見るために
  • 治療時間の確保:精密な細かな作業には時間を要します
  • 専門性:担当医の技術力

成功に導くために、これらが必要になります。

日本では

  • ラバーダム防湿:保険適応外です
  • マイクロスコープ:使いません
  • 時間の確保:保険診療は患者1人あたり10分~30分以内です
  • 専門性:日本の歯科医師は誰でも根管治療をしなければいけません

といった具合で、世界的な医学基準と異なります。
そのために成功率30%~50%と結果に表れています。

ここで海外の根管治療の論文データを見てみましょう。

・初めて根管治療を行なった場合の治療の成功率は85~95%と海外では言われています。
(Ng YLら 2007/2008 , Sjögrenら 1990 , Torabinejad Mら 2007)

と、成功率は9割ほどあります。

また、当たり前ですが治療はすればするほど、再治療になるほど、成功率は落ちます

・2回目の根管治療を行なった場合、初回の根管治療より成功率は下がり、推定成功率は77%と言われています。
(参考文献:Outcome of secondary root canal treatment : a systematic review of the literature. )

今回の治療は3度目の治療になりますので、さらに成功率が落ちます。

また今回の歯はパーフォレーションを起こしています。
パーフォレーションのある歯の治療はさらに難易度が高くなります。

・穿孔のある歯の成功率ですが、海外の論文では成功率は42%と言われています。
(参考文献:Treatment outcome in endodontics: the Toronto study. Phases I and II: orthograde retreatment.)

つまり、今回の症例では「再々治療」さらに「3根管のパーフォレーション」と言うSSS級の難易度で、5年の成功率はかなり低くなると考えられます。

注意したいのは、上記は海外の論文であり、このデータは日本に当てはまらないという事です。
通常通り、日本の保険診療所で行った場合は限りなく治りません。

 

症例に戻ります。
当院で専門的な精密根管治療を行ないました。
治療の回数はやはり通常よりかかりました。
通常は約2回で終わりますが、今回は1回の来院で1根管ずつ丁寧に治療をし、来院回数は5回でした。
根管充填をしたCT画像を見ていきましょう。
まずは3D画像です。
3D画像:穿孔を根幹治療
最初は途中で充填材が止まっていましたが、根の先まで充填されているのが分かります。

近心の歯根の断面です。
歯の断面:穿孔を根幹治療
青い矢印の根管は、根の先までしっかりと進めました。
赤い矢印は横側に穿孔していましたが、方向を修正しました。
※この根管だけは閉鎖していて根尖までは到達しませんでした。根管治療ですが、無理に根の先まで繋げる必要はありません。しっかりと根管の殺菌が出来ていれば、今回のように成功します。

遠心の歯根の断面です。
遠心歯根の断面
左側の根管ですが、本来の根管へ修正し、充填しているのが分かります。
右側も根の先まできれいに繋げています。

この後は通常通り補綴治療といって、しっかりと人工歯を製作し、装着します。
その後、歯ぐきの腫れなどの症状や違和感はなく、全く気にならず生活されていました。

ここでさらに治療で注意しなければならないことがあります。
根管治療を成功させるためには、しっかりとした根管治療と、しっかりとした補綴処置が必要になります

こちらは海外の論文データをまとめたものです。
根管治療・被せ物精度と成功率比較
(参考文献:Periapical status of endodontically treated teeth in relation to the technical quality of the root filling and the coronal restoration)

根管治療をしっかり行ったとしても、その後に被せる人工歯の精度が高くなければ成功率が落ちてしまう結果が出ています。
つまり、根管治療をちゃんとやっても、日本の保険の治療で精度の良くない被せ物が入った場合は、成功率は半分以下に落ちる可能性があります。

当院は自費治療を専門で行っている歯医者です。
他院の根管治療専門の病院で根管治療を行なった後に、被せ物を当院でお願いしたいという患者さんも多くいらっしゃいます。
根管治療専門の病院では「根管治療のみ行うので、補綴処置は別の医院でしてください」という場合が多いです。

当院では、根管治療も専門的に行いますし、精度の高い補綴処置も提供しています。
わざわざ病院を変える必要はなく、当院で全ての治療が終わりますので、お悩みの方は是非ご相談ください。

当院で定期検診を行い、5年後のCT撮影で予後を確認しました。
穿孔:5年後のCT撮影予後
横側から見てみると根の先の黒い影が消えています。
炎症が無くなり骨が再生しています。5年後で再発の兆候は無く安定しています。

最初のCT画像ももう一度見てみましょう。
初診術前穿孔
術前です。根の先と周囲に黒い影がしっかりと見えます。

断面で確認です。
穿孔:再根管治療術後治癒
根の先端の黒い影が全くありません。
右の根管は閉鎖していましたが完治しています。

遠心根の断面も見ます。
穿孔:再根管治療術後完治
左側の穿孔していた先の骨も再生し、根の先の黒い影も無くなっています。

5年経過しましたが安定しています。しっかりと治っています。

根管治療が適切に行われることで、自分の歯を長く使うことが出来ます。
しかし、根管治療をしてある歯は、根管治療をしていない神経が残っている歯と比べると2~3割生存率が落ちるという報告があります。
神経を治療した歯は脆くなるために、歯根破折などのリスクが高くなるためです。

神経を取らなければならないほど虫歯がひどくならないように定期検診や日々の虫歯予防、虫歯になったとしても神経を取らずに保存する神経温存療法を行なうことで、歯の寿命を延ばすことが出来ます。

 

先日、歯ぐきが腫れてかかりつけ医で抜歯をされたという患者さんがセカンドオピニオンで来院されました。
担当医からは「膿んであごの骨が溶けている。早く抜歯をしないと骨が溶けてインプラントが出来なくなる。」と言われたために抜歯したようです。
インプラント治療をしたい歯科医師や、根管治療が上手でない歯科医師の治療の選択肢は「抜歯」となります。
抜歯前のレントゲン写真を確認しましたが、根管治療で治っていた可能性もありました。

他院で抜歯宣告されたとしても、精度の高い根管治療で治る可能性もあります。
長い人生、患者さんの大切な歯でいつまでも美味しく食事ができて生活できるように、当院では日々研鑽を積んで、技術力を高め、より良い医療を提供しています。

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